私は戦争のない世界を望むのレビュー

私は戦争のない世界を望む
私は戦争のない世界を望む

ウクライナの戦争から一年が経過した。この一年、戦争というものについて思索することが多かったが、その一環としてこの本を読もうと思いたった。発売されたのは10年前だったということに注文後に気づいたが、読んでいて「時代遅れ感」のようなものは感じなかった。

「戦争のない世界」を私も望む。しかし現実は、軍事力に頼らずに守るべきものを守るには、知恵と努力と勇気が要る。理想や理念だけで平和は実現しない。例えば「ウクライナは核を放棄したからロシアに攻め込まれた」などという問いにどう反論するのか。拒否権で圧倒的な力を持っている国連安保理の常任理事国がいずれも核保有国である現実をどう説明するのか。「市民力による防衛: 軍事力に頼らない社会へ」著者のジーン・シャープ氏は、非暴力にこそ「戦略」が必要だと述べている。

本書が訴えるのは、戦争をなくすための、時間はかかるだろうが根本的なアプローチだと言える。それは、一人ひとりの心の中が平和になること。戦争に向かう「空気」を醸成するのは上からのプロパガンダだけではなく、国民の不満や、どこにぶつけていいかわからない怒りというものが大きい。だから、そもそもの「土台」から何とかしないといけないという考え方には賛成だ。

グリューン氏は「共感」の大切さを強調しており、幼少期の育てられ方に問題があると共感力は損なわれてしまうと述べている。共感力はネズミにだってある(オランダ神経科学研究所による研究)。ましてや私たちは人間だ。戦争のない世界の実現は、著者が「簡単」とまで言うのは楽観的な気がするが、希望はあると信じたい。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
J.T.さん